ピアニストのグレン・グールドは、まだ若い31歳の時、突然、聴衆の前での演奏会(コンサート)を一切やめてしまいます。
当時の彼は、おそらく世界でもっとも人気と実力のあるコンサート・ピアニストの一人。
そんな音楽家が、突然のコンサートからの引退(本人曰く「ドロップ・アウト」)。
しばらく休止してのち復帰するピアニストはいますが、バリバリの現役でコンサート活動を(死ぬまで)一切止めてしまったピアニストは、僕の知る限り、グレン・グールドただ一人しかいません。
「空前絶後」
思わずそう言いたくなります。
引退の理由をグールドはいくつか語っていて、そのどれもが最もらしく聞こえるのですが、僕は個人的に、言葉でではなく映像(演奏シーン)を見て初めて、「ああ、なるほど。そう言うことだったのか」、と腑に落ちる所がありました。
それはスタジオでのライヴ映像で、聴衆は無く、床も壁も全てが真っ白い部屋に真っ黒いグランドピアノ、そして、そこにグールドただ独り。
彼は異様に低い、ボロボロの椅子(「これは僕の家族なんだ」)に腰掛け、体を揺らし、ウェーヴェルンのピアノ曲を弾いています。
凄く没我的に、あるいは、瞑想的に。
その様はあまりにも異様なので、とてもただのライヴ映像には見えません。
目を閉じ、口をパクパクさせ、恍惚とした表情を浮かべるその男は、音楽を演奏していると言うよりも、音楽と同化しているように(僕には)見える。
その内部に入り込み、内側の世界で(安心して)呼吸し、行動し、息づいている人の様に見える。
まるで、この現実の世界から抜け出し、独り、夢の世界を生きている人の様に。
「グールドには、自分を夢の世界に連れて行ってくれる音楽さえあれば、聴衆は特に必要無いんだろうなぁ」
そのライヴ映像を見て、僕はそう実感しました。
先日行われた第10回『人の話を聴く会 番外編』で、「『話を聴く会』は今回でひとまず終わりにします」、と僕は最後に告げました。
理由はもちろんちゃんとあるのですが、文章ではうまく伝わるか自信がないのであえて書きません。(気になる方は直接質問して下さい)
その『会』を終わりにするにあたって、僕の頭の中にあったのが、グールドの事です。
聴衆の前でのコンサートをやめ、独り、スタジオ(夢の世界)に籠ったグールドの事。
『人の話を聴く会』はひとまず終わりにしますが、ちょっと、また新しい事を始めて見ようと思っています。
自分にとっては、とても大胆で、すごく大きな試みです。
やって見なくちゃ分からないところや、期待と不安の大きさ、それは『人の話を聴く会』とほぼ同様。
「じゃあどうしてそんな事やるんですか?」と訊かれたら、「自分に対する好奇心です」と応えます。
「自分がどういう人間なのか知りたい」、そう言う好奇心。
いささか前置きが長くなりましたが(あいも変わらず)、題して、
『個人的に話を聴く会』
僕(トムネコゴ店主)が、1対1で、あなたの話を聴く会です。
興味のある方は、thomnecogo@gmail.com、までメール下さい。
追って詳細をお知らせします。
店主
今月の僕の誕生日に古い友人から贈られた一枚の絵。素敵ですね。凄く気に入っています。
今度始める新しい事をも祝福されているようで、二重に感慨深いものがあります。
“Happy Birthday”(and White Christmas…)
因みに、僕はこの絵から「カポーティ的都市と孤独」を感じますが、皆さんはいかがですか?
posted by トムネコゴ at 06:35| 東京 ☀|
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