そう言って、菅間さんはその日の演奏会を始めました。
1月14日、日曜、午後7時、会場(トムネコゴ)は廊下にまで人が溢れています。
菅間さんはちょうど皆んなの中心に位置する場所で、ミシン椅子(sewing-chair)に腰掛け、ギターを弾いたり、合間にボソボソと何かを語ったりします。
「上手に弾けるかな…」
僕たち(観客)はその音楽にじっと耳を澄ませ、その言葉に静かに耳を傾ける。
それらはお互いを補い合い、補完し合う様に、その小さな演奏会を形作っている。
それはいかにも菅間さんらしい親密な音楽であり、言葉。
それは何かを思い出させる独特の音楽であり、言葉。
“忘れかけていたもの”や、“忘れてはいけないもの”。
おそらくは、そう言う種類の記憶たち。
「最近は、『いって おいで』と言う作品が、頭にあるので、その中から…」
時折通る電車や車の音に阻まれながらも、その音楽と言葉は不思議に胸に響く。
それは時間をかけ、ゆっくりと、僕たちの身体に浸透していく。
まるで雪が静かに降り積もるように。
演者は真摯に自分の音楽と言葉を語り、僕たちは真摯にそれを受け止める。
そこには親密な空間があり、お互いのやり取りがある。
日常とは違った世界があり、日常へと続く思いがある。
“その場にある何かが胸の奥を震わせるのが分かる”
「もう一つ、店主が思い出させてくれた曲を、弾かせて、ください」
そう言って、菅間さんはその日の演奏会を続けました。
Sugama Kazunori solo vol.12 『winter』より
いつも思う事ですが、菅間さんの音楽を言葉で表すのはひどく難しい。
そして、この季節毎の小さな演奏会の雰囲気を伝えるのもまた、難しい。
僕は、まだ参加した事がない人の為に、いつかその気を起こさせる文章が書ければいいな、と思っています。
店主